2022/12/25 10:36
今回は、su-re.coのコーヒー輸出や販売促進など、コーヒー販売に関わる一連の工程を担うビジネスチームの一人 、Okta Fianna Winderさんにsu-re.coで働く意義についてお話を伺った。
仕事のやりがいを見失ってしまった
Oktaさんはsu-re.coで働き始めて丸2年が過ぎ、「前の会社では朝起きるのが、憂鬱だった。今は起きることが楽しみ」だという。
前職はスタートアップで起業支援の業務をしていた。学生時代に参加した、インドネシア次世代リーダー育成の奨学金プログラム『XL Future Leaders』で、起業に惹かれたからだ。
スタートアップでは、起業した人やこれから起業をする人々と関わるなかで、起業のノウハウやリーダーシップを学んできたわけだが、次第に「仕事のやりがい」を問われることになった。
「まとまった収入があり、生活を営むことに何不自由がありませんでした。でも、働き初めて一年が過ぎた頃、心身の異変に気づいたんです。朝起きるとなぜか疲れていたり、仕事のことを考えるとさらに疲れたりしていました。」
“朝起きる理由”を失って、この会社で学べることは十分に吸収したと分かり、退職を決意。別の仕事に進んで、社会に直接インパクトを作ってみたいと思うようになった。
地域へ経済・社会・環境のインパクトを生み出す
前職で仕事のやりがいを見失って退職したが、su-re.coで働き始めるようになって、すぐに前職の経験が生かされてきた。在庫管理システムの整備や、スーパーマーケットや自然食品店の顧客などステークホルダーとのコミュニケーション。[1]
それでもsu-re.coでは新しい知識や経験を吸収する日々だと話す。
「もともとコーヒーを飲まなかったので、コーヒーのこと、ましてやコーヒーの種類によって味が違うことなんて知らなかったです。でも、今の仕事に就いて以来、コーヒーの試飲をしていくうちに味の違いがわかるようになりました。また、su-re.coではクナリナッツやカシューナッツも扱っていて、コーヒー以外の商品の知識も日々吸収しているところです。」
Oktaさんは、ビジネスチームでありながら農家向けの気候変動スクールなどトレーニングの企画・運営も担う。[2]
「コーヒー農家とのコミュニケーションもその一つです。会話では、どのように伝えたら理解してもらえるか伝え方をよく考えて話すようにしています。例えば、気候変動のことを説明するとき。農家に気候変動の影響により、南極の氷が解けていると言っても、農家にとっては遠い世界の話になってしまいます。だから、今年の収穫状況を聞いていくと、気候変動の影響を受けていることが見えてきて、自分ごととして捉えるようになるのです。」
「また、大学では化学工学の専攻だったので、農業はsu-re.coにきて学んできました。やはりsu-re.coのパートナーである農家と関わることが多く、農業を理解する必要性を感じています。」
このようにOktaさんが真摯に取り組む原動力には農家の存在が大きい。コーヒーやクナリナッツなど、クライメート・スマート・プロダクト(CSP)※を世に広め、購入者がもっと増えれば、農家の生活向上や持続可能な農業の規模は拡大する。su-re.coのプロジェクトをインドネシア中へ届けたいと意気込む。何より彼女のやりがいは、地域に貢献することなのだ。
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※クライメート・スマート・プロダクト(CSP)とは
su-re.coでは、コーヒーやカシューナッツなどのクライメート・スマート・アグリカルチャー(CSA)に則った商品、クライメート・スマート・プロダクト(CSP)の収益の一部が、気候変動スクールの実施や、家庭用のバイオガスキットの設置に使用される。特に気候変動スクールは、伝統的な農業を重んじながら、気象情報などの科学データを合わせる研修。
※クライメート・スマート・アグリカルチャー(CSA)とは
「農業開発と気候変動対応の統合を通じ、持続的な農業生産性の改善、強靭性の強化、GHG排出削減、を同時に目指すアプローチ」を指す(1)。
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ここまで彼女自身がsu-re.coの仕事を愛する理由には、幼少時代の物語に”核”が隠されている。
”非”持続可能なパームオイル産業と隣り合わせの18年間
彼女が生まれ育った場所は、スマトラ島。コーヒー好きなら誰しも知るマンデリンコーヒーの生産地だ。地形は、山脈が連なり火山灰土壌であるため肥沃な土壌を持ち、独特のスパイス風味と奥深い苦味のある絶妙なコーヒーを作り出している。
そんなスマトラ島は、ボルネオ島に次ぐパームオイル(=アブラヤシから採取される植物油)の生産地でもある。
熱帯雨林や泥炭地だった土地を切り拓き、企業によるプランテーション(=大規模農園)や小規模農家によって生産されてきた。非持続可能なやり方は、森林を壊し生き物の住処や食料を奪ったり、労働者の人権を侵害したり数多くの環境問題や社会問題を抱える。
Oktaさんは幼いころからパームオイルによる環境と人的ダメージを経験してきた一人だ。
「いつも母が運転するオートバイに一緒に乗って、食器や洗濯物、家に水を持って帰るためのバケツを持って、水のアクセスが行き届く富裕層の地区に行っていました。もちろん家でシャワーが浴びれなかったので、そこで済ませるような生活です。」
「また、パームオイルの農地では火災が付き物です。特に泥炭地※は可燃性があり燃え広がります。火災がひどく年には、外出時にマスク着用が必須だったり、外出制限で学校に行けなかったり、病気にかかったりと大気汚染に遭いました。」
※泥炭とは
草類が堆積して生成された土壌のことをいい、水分と炭素を多く含む。乾燥すると可燃性を持ち、CO2を放出する。火災による大気汚染や大気中のCO2排出が問題視されている。
インドネシアの泥炭地面積は1490万ha、その内スマトラ720万ha(2)。
「子供のころの記憶としてよく覚えていることが、森林伐採する人々の様子です。森に住む動物は住処を失い食べ物を求めて人が住むところへ来ることもしばしばありました。」
”水の格差や森林火災、伐採が起こる日常”を送っていくうちに「何かすべきだ」という使命感が宿る。
不合理なやり方を取るパームオイル産業の状況を目の当たりにしてきた「昔」と、su-er.coでCSAに則ったコーヒーを通して地域に貢献する「今」。点と点が線で繋がるように、過去と今が繋がっている。朝起きが楽しみでないわけがないだろう。
コーヒー農家が涙する?
インタビューの最後に、フローレス島のコーヒー農園一角で撮ったという一枚の写真を見せてくれた。
壁に書かれたメッセージには、
”Pastikan kopi yang Anda minum tidak bercampur air mata petani”
「農家の涙をコーヒーに混ぜないで。※」
と書かれている。
なぜコーヒー農家が涙を流すのだろうか。
気候変動の影響でコーヒーチェリーの不作となれば、コーヒー生産量が落ちる。収益は下がり農家生活は逼迫する。負の循環に陥りかねない。
逆にCSAによりコーヒーチェリーの安定的な収穫となれば、コーヒー生産量が増える。収益が上がり、生活が向上する。
飲んだコーヒーに農家の涙が混ざっていたら、美味しく味わえない。せっかくなら、農家の笑顔が思い浮かぶようなコーヒーを飲みたい。でも、嬉し泣きの涙だったら、コーヒーはずっと美味しいかもしれない。
※(補足)インドネシアでは、砂糖入りのコーヒーが主流。屋台で頼むとスプーンで砂糖をかき混ぜる音がよく聞こえる。
参照:
(2)Wetlands International | Current status of peatlands in Indonesia and its restoration efforts